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循環型社会の構築に寄与する
光による環境浄化


接合科学研究所 スマートコーティングプロセス学分野
中出且之 大森 明
最新の溶射技術を用いて高速で厚い膜をつくると、表面の性質を変えることができます。リサイクルしたペットボトルや環境にやさしい生分解性プラスチック等の表面に「光触媒」といわれるTiO2粉末を溶射すると、環境をきれいにする機能をもったプラスチックが作成できます。

このような溶射技術が、快適な循環型社会の構築に寄与できることを紹介いたします。
溶射の模式図

「溶射」とは原理的には霧吹きや塗料の吹き付けと同様です。溶射技術とは粉末に何らかの方法で熱を与えて溶融し、液体微粒子(数マイクロ〜百数十マイクロメートル)として素材表面に高速度(毎秒数十〜数百メートル)で衝突させて、表面に膜を形成することにより、材料表面を化粧する技術であります。

プラスチックのリサイクルシステム
私たちは、地球環境との調和のとれた循環型社会を実現するため、再帰循環システムの構築を目指して研究しています。プラスチック(PETボトルや生分解性プラスチックなど)のリサイクルと溶射技術と関連させて適用した例を図に示します。溶射により新たな機能(ここではTiO2光触媒機能)を与えられ再生されたPETボトルは、各種機能に応じて環境浄化のため利用されます。
溶射を利用した循環型社会の構築が可能
光触媒:身のまわりにある身近な光触媒に『葉緑素』があげられます。
葉緑素は、太陽光を利用して二酸化炭素と水を反応させて、デンプンと酸素をつくります(光合成)。光を利用して空気をきれいにしたり、ニオイの分子を分解したり、雑菌を殺菌したりする物質が、今話題の二酸化チタン(TiO2)の光触媒です。

環境の家
プラスチック表面に形成されたTiO2光触媒皮膜はいろいろな機能を有します。それを利用した環境の家の模式図を示します。光触媒TiO2皮膜のはたらきで、動物などからの悪臭(NH3など)、シックハウス症候群のホルムアルデヒド、煙草などの臭いのもとであるアセトアルデヒドを分解することにより、無害化します。さらに、抗菌、カビの発生防止、水道水のにおいの除去などの機能によって、抗菌トイレや風呂の水の浄化再生などに適用できます。

酸化チタン(TiO2)のもつ光触媒反応の原理とその働き
酸化チタンは、主に顔料としてよく使われ、歯磨き粉や化粧品、さらには食品添加物としても認められている安全無毒な物質です。
 酸化チタンに太陽光が当たると、酸化チタンの中の電子がエネルギーをもらって外に飛び出すことで、電子と正孔が生成し、水や酸素などとの反応によりOHラジカルやスーパーオキサイドアニオン(O2-)などの活性酸素(人体の害のでない量)を生じます。この光触媒作用により、有機物を完全に分解して無害な物質に変えることができます。

グラフは、溶射により作製したTiO2の膜を用いたアンモニアガスの分解実験の様子を示しています。TiO2の膜に光を当てることにより、アンモニアが分解され、脱臭効果が発揮されていることがわかります。
大阪大学総合学術博物館 第2回企画展 「ジグソーのピースを探して」 INDEX