人間(2)

周囲360°が見える目と仮想体験ツアー


谷内田 正彦、 長原 一 (基礎工学研究科 システム人間系専攻)
周囲360°が見える目
馬やハエトリグモなど、左右170°といった人間よりも広い視野をもつ生物が自然界には存在します。このような広い視野は、危険の察知、捕食行動などを効率よく行うために、進化の過程で各々の生物に備わったものと考えられています。また、芸術の世界では、レオナルド・ダ・ビンチの時代から、周囲360°のパノラマを描いた作品が作られ、その後のアートティストたちも、写真や絵画を円筒面に反射させる技法により数多くの作品を残しています。最近では、自然界やアートだけでなく、画像計測やバーチャルリアリティ、セキュリティ、ロボットなどの分野でも周囲360°の視野情報を利用した研究が盛んに行われています。

基礎工学研究科谷内田研究室で開発した全方位視覚センサは、双曲面鏡とカメラで構成され、この鏡に映る環境をカメラで撮影することにより、リアルタイムで全方位周囲360°を観測することができます。

全方位視覚センサの特徴
全方位視覚センサHyperOmni Visionは、双曲面鏡を用いています。このため、死角のない全方位画像をリアルタイム(動画)で観測することができます。ふつう、このような全方位入力画像には大きな歪みができますが、双曲面鏡を使うと、歪みのないパノラマ画像や一般的なカメラ画像に容易に変換できます。この特徴から、バーチャルリアリティや監視カメラなどの応用分野に用いることができます。

これまでの全方位撮影するための方法では、カメラを回転させる方法や魚眼レンズを用いる方法、球面や円錐の凸面鏡を用いる方法などが提案されてきました。しかし、カメラを回転させる方法は全方位を撮影するのに時間がかかるため動画撮影することが実質的には不可能でした。また、魚眼レンズや球面や円錐面鏡を用いた方法は、動画撮影はできるものの、歪みのない画像を生成することができませんでした。

これらリアルタイムの撮影と歪みのない画像変換が可能な特徴により、この全方位視覚センサは、広い応用分野において活用されています。

バーチャルツアーシステム
近年、一般の人が立ち入れない宇宙や深海等の映像を提示することで、仮想体験を行うシステムが注目されております。高い臨場感や没入感が得られる大きな要因として、視点や視線の自由な変更による観察ができることが挙げられます。しかしながら、従来の仮想体験システムの多くは、製作者の意図により映像視点や視野が決められており、ユーザが自由に好みの視点を設定することはできませんでした。

全方位視覚センサを使うと、周囲360°をリアルタイムで撮影可能となり、全方位画像中からユーザの視線方向に応じた画像を変換提示することで、自由に画像を見回すことができます。我々が提案するバーチャルツアーシステムは、遠隔地で撮影された全方位視覚センサの映像をあらかじめ録画または無線で送り、ユーザの視線方向を計測してヘッドマウントディスプレイに視野映像を変換提示します。これにより、首振りによる周囲360°の仮想視野映像観察をリアルタイムで行うことができます。この首振りにより、臨場感が得られ、時間や空間的に離れた環境を仮想的に体験することができます。
大阪大学総合学術博物館 設立記念展 「いま阪大で何が? - 人間・地球・物質」 INDEX