人間(3)
マウスやゼブラフィッシュに、
私たちの体のつくり方をたずねる


近藤 寿人、目野 主税、蒲池 雄介(生命機能研究科)
ゼブラフィッシュの“yot”と呼ばれる遺伝子の突然変異体では、
脳下垂体が水晶体に変わっていた!

●脳下垂体に潜在的に備わっている、「水晶体になる(分化する)」能力を、正常な  遺伝子が抑えていました。

●このように、異なった組織に変化する力(分化転換能)は、いろいろな組織に潜在的に備わっているのですが、それは通常は抑えられているようです。

●潜在的な分化転換能と、それを抑えているものを明らかにすれば、現在検討されている、再生医療や、細胞移植医療の可能性を大きく広げるでしょう。

マウスとゼブラフィッシュ
数千年前からヒトに愛玩用ペットとして飼われていました。飼育が容易で、“二十日ねずみ”とも呼ばれるように、短い妊娠期間で沢山の子供を産んで良く繁殖することから、20世紀前半から実験動物として用いられています。15年程前に、マウスからある遺伝子だけを取り除き、そのマウス(ノックアウトマウス)の性質を調べることによって、もとの遺伝子の働きを明らかにする方法があみ出されました。 
マウス
小さな熱帯魚ですが、私たちヒトと同じ脊椎動物の仲間なので、基本的な体のつくりや、体の器官がつくられる仕組みは共通しています。胚は透明で中までよく観察できます。ゼブラフィッシュは、3ヶ月ほどで親になり多くの卵を産むので、遺伝学には
打ってつけの動物です。人工的に沢山の遺伝子の突然変異体を作りだして、突然変異体の性質を調べることにより、体作りの過程で果たす各々の遺伝子の役割を明らかにすることができます。
ゼブラフィッシュ

マウスでわかったこと:
体の右側と左側の違いはどのようにしてできるのか?
●私たちの体は、右側と左側で大きな違いがあり、その違いは特に内臓で目立っています。どのような仕組みで体の左右の違いが生まれるのでしょうか?

●マウスでは受精後8日目に胚の左側だけで「ノーダル」という蛋白質を分泌します。ノーダルは左側の性質を決定する役割をもっており、できたばかりの臓器の芽(原基)の左側だけが、ノーダル蛋白質にさらされることによって、体は左右の違いを獲得します。
●私たちは、ノーダルと同じように胚の左側に現れる分泌蛋白質をみつけ、「レフティー」というニックネームをつけました。(レフティーLefty:左利き)。

●レフティーの役割を明らかにするためレフティー遺伝子を失ったノックアウトマウス胚を作成しました。レフティーを失った胚ではノーダルが左側だけではなく右側でも分泌されて、臓器は左右とも左側の形と性質をもってしまいました。

●つまり、正常なマウスでは、レフティーはノーダル蛋白質の分泌を体の左側に限らせることによって、体の右側と左側の違いを正しく作っているのです。
大阪大学総合学術博物館 設立記念展 「いま阪大で何が? - 人間・地球・物質」 INDEX