人間(4)
グリーンマウス・・・遺伝子語は種(しゅ)をこえて


岡部 勝、 伊川 正人 (遺伝情報実験センター)
なんて書いてあるかわかりますか?
GTCGACATTGATTATTGACTAGTTATTAATAGTAATCAATTACGGGGTCATTAGTTCATAGCCCATATAT
GGAGTTCCGCGTTACATAACTTACGGTAAATGGCCCGCCTGGCTGACCGCCCAACGACCCCCGCCCAT
TGACGTCAATAATGACGTATGTTCCCATAGTAACGCCAATAGGGACTTTCCATTGACGTCAATGGGTGG
ACTATTTACGGTAAACTGCCCACTTGGCAGTACATCAAGTGTATCATATGCCAAGTACGCCCCCTATTG
ACGTCAATGACGGTAAATGGCCCGCCTGGCATTATGCCCAGTACATGACCTTATGGGACTTTCCTACTT
GGCAGTACATCTACGTATTAGTCATCGCTATTACCATGGGTCGAGGTGAGCCCCACGTTCTGCTTCACT
CTCCCCATCTCCCCCCCCTCCCCACCCCCAATTTTGTATTTATTTATTTTTTAATTATTTTGTGCAGCGA
TGGGGGCGGGGGGGGGGGGGGCGCGCGCCAGGCGGGGCGGGGCGGGGCGAGGGGCGGGGCGGGGCG
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GCGGCGGCGGCGGCCCTATAAAAAGCGAAGCGCGCGGCGGGCGGGAGTCGCTGCGTTGCCTTCGCCCC
GTGCCCCGCTCCGCGCCGCCTCGCGCCGCCCGCCCCGGCTCTGACTGACCGCGTTACTCCCACAGGTG
AGCGGGCGGGACGGCCCTTCTCCTCCGGGCTGTAATTAGCGCTTGGTTTAATGACGGCTCGTTTCTTTT
CTGTGGCTGCGTGAAAGCCTTAAAGGGCTCCGGGAGGGCCCTTTGTGCGGGGGGGAGCGGCTCGGGG

人間の体は細胞からできていますが、細胞の中にはどんな体を作るのかを指令する遺伝子が入っています。遺伝子はA、C、G、T、とよばれる4種類の核酸からできており、そのつながり具合が情報になっています。すなわち文章のようになっているわけです。人の細胞一つには全部で約30億文字がならんでいますが、今ではそのすべてが明らかになっています。ただし、上のようにそのままではなんと書いてあるのかはわかりません。エジプトの象形文字が読み解かれたように、遺伝子に書かれた文章を解読する作業を世界中の科学者が行っています。遺伝子に書かれたことばを理解することによっていろいろな病気がおこる仕組みなどが明らかになり、新しい治療法やよく効く薬を開発することができます。
解読操作のひとつにトランスジェニック動物の作製という方法があります。上の写真はマウスの受精卵に調べたいDNAを注射することによってそのDNAをもつトランスジェニックマウスを作り出すところです。

いろいろな遺伝子を組み合わせることにより
光るマウスが生み出されました
犬や猫と話ができるという人がいます。でも犬語や猫語がわかるって本当でしょうか?
すべての細胞や植物は形は違っていても、いろんな細胞の集まりでできています。
それぞれの細胞の核の中には同じ構造をもった遺伝子が染色体と呼ばれる構造を
とって含まれています。染色体には遺伝情報が書きこまれていて、そこには遺伝子語と呼べるような文法があることがわかっています。

光るマウスはウイルスのエンハンサー、ニワトリのプロモーターとイントロン、クラゲの蛍光たんぱく質遺伝子、ウサギのポリAシグナルと呼ばれる各要素をつないだものをつくって、マウスの受精卵に打ち込んで得られたものです。動物の種が異なっていても動物は同じ文法を使って情報を書きこんでいるために、このように種をこえて機能を共有することが可能になります。光るマウスはこのようなことを実証しているマウスです。

私たちの作ったマウスは新しい医療や創薬の
ための基礎研究に役に立っています
体の中には幹細胞とよばれる多くの細胞のもとになる細胞があります。この幹細胞を移植することによって病気を治そうという新しい治療法が試みられています。緑のマウスから幹細胞を取り出して、別のマウスに移植するとその幹細胞がどのようにして増えてゆくのかを簡単に観察することが可能です。下の写真は精子をつくる元になる細胞を移植したところ、移植された精巣内で光る精子が産生された様子です。この実験から精子が精巣内でできあがる仕組みを詳しく調べることができました。このような基礎的な研究によって将来は絶滅が取りざたされている希少動物の繁殖のお手伝いなども可能になるでしょう。
 また、がん細胞に緑の蛍光をつけておくと、がんにかかったマウスに薬を投与することによって、それがどのくらい効いているのかを簡単に調べることもできます。
大阪大学総合学術博物館 設立記念展 「いま阪大で何が? - 人間・地球・物質」 INDEX