紫外光発生用波長変換結晶
ある媒質(結晶など)にレーザーのような強い光(電磁波)を入射すると、入射光と同じ振動数の光に加えて、新たに2倍振動数などをもつ高調波振動成分の光が発生します。これが「非線形光学効果」を利用した波長変換で、レーザー光の色(波長)を自由に変えることが可能となります。これにより、赤外線の固体レーザー光を緑色に変え、その次に緑色光を紫外線に変えることができます。
この方式は、直接紫外光を発生する気体レーザーに比べ、装置が小型で長寿命、維持費が安いといった優れた特長をもっています。また、用途に応じて広い範囲で波長を選択することができます。紫外光への変換特性は用いる結晶の性能で決まるため、どのような結晶を使うかが重要なポイントとなります。
大阪大学では新しい非線形光学材料の創製と評価、それらを用いた新レーザーシステムの開発を行っています。
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紫外光発生用波長変換結晶
CsLiB6O10(セシウム・リチウム・ボレート、CLBO)は1993年に大阪大学で開発された新しい非線形光学結晶で、汎用のNd:YAG固体レーザーの第4、第5高調波(紫外線)を最も高効率で発生させることができます。また、波長200nm以下の真空紫外光発生特性にも優れており、産業・医療分野で注目を集めています。
この結晶は、約850℃で溶かした原材料溶液を、ゆっくり冷却させながら育成します。成長の速度は1日に数mm程度です。最近では、溶液を効果的に撹拌しながら育成し、結晶品質を大きく向上させる技術を開発しました。
得られた結晶から素子を切り出して紫外光を発生させたところ、波長変換では世界最高の42W出力(波長:266nm)を得ることができました(2002年8月現在)。これは三菱電機(株)他との共同研究で得られた成果で、現在も実用化に向けて開発を進めています。
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紫外光発生用波長変換結晶
全固体紫外レーザー光は、集積回路の光リソグラフィ(光による焼き付けでミクロな模様をつける技術)、携帯電話やノートパソコン用の多層配線基板への超微細加工、高密度情報メディアDVDへのデータ書き込み、光造形、近視矯正手術や細胞解析など多くの産業・医療・科学分野で応用されようとしています。下図は超微細多層配線加工の断面図を表しています。有機樹脂・銅の多層基板に紫外光を集光させて穴開け加工を行います。基板の積層工程と組み合わせることで、超微細多層配線が可能となります。これは、将来の携帯電話やノートパソコン、電子マネーの小型・軽量化に大きく貢献する技術として期待されています。このような中、2002年春にはCLBO結晶を搭載した全固体紫外レーザー光源が、米国最大の固体レーザーメーカーのスペクトラフィジックス社から発売されました。国内では、(株)三菱電機、(株)三菱重工業、(株)ニコンなどで、超微細加工用高出力全固体レーザーの実用化が進められています。 |
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