木羽康真「中村貞夫展 展覧会鑑賞レビュー」 

連載コラム「中村貞夫とその芸術」第13回

 

 

 

中村貞夫展 展覧会鑑賞レビュー 

 

木羽康真

 

 

 大学では新学期が始まり、ゴールデンウィークを目前にした2018年4月27日に大阪大学総合学術博物館と豊中市立文化芸術センターの二つの会場にて「四大文明の源流を求めて 探求の旅、描きとめる熱情 洋画家 中村貞夫」展が、開催されました。

 

 私もポスター・チラシ・叢書カバーのデザインを担当したこともあり、開催を心待ちにしていました。

 

第1会場_エントランス

 第1会場の大阪大学総合学術博物館では「――その芸術の起源から富士へ」とう副題がついており、中村貞夫の高等学校時代の作品から始まります。また映像も展示されており、中村貞夫が出演したNHK「土曜 美の朝」も鑑賞できました。

 

 展示室は各章ごとに壁紙が緑から赤、青、紫、黒と分けられ、暗めの照明にスポットライトが各作品を照らし出します。第1室「萌芽」では初期作品のダークな色彩と深い緑色の壁紙による展示空間から緊張感が伝わってきます。ポスター・チラシのデザインにて画像補正をしたことで作品鑑賞に影響はないか心配していましたが作品の魅力の前では無用な心配だとすぐにわかりました。中央ケースには、中村貞夫が師事した小磯良平と伊藤継郎のデッサンが中村貞夫のスケッチとともに陳列され、中村貞夫の描く作品の源流のように感じました。

 

第1会場_第1室
第1会場_第1室
第1会場_第1室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第2室「燔祭」では壁紙が赤に変わり、茶色や赤、黒などの絵の具がボコボコとした荒々しいマチエールの抽象画作品が並びます。作品はまるで未知のレリーフのように思え、少し不気味な空間が広がっていました。ケースには中村貞夫が使用したパレットや絵筆、ホルベインの絵具缶も展示され、どのようにして作品が描かれているか想像して楽しめました。

 

第1会場_第2室

 

 第3室「自然を描く」では壁紙は青に変わり、風景画の作品が並びます。しかし、後の「富士」や「四大文明」とは異なり、「燔祭」の抽象的な表現が残る風景画でもありました。中央ケースには作品のスケッチが陳列され、これから数多くの作品が生まれる風景画の世界を予感させていました。

 

第1会場_第3室

 

 第4室「富士」では壁紙は紫にかわり、富士山をモチーフにした風景画が陳列されています。日本を象徴するモチーフを中村貞夫はどう表現し魅せてくれるのかを楽しめる部屋でもあります。エメラルドグリーンの夏の富士はどこかデザイン的な要素を感じさせていました。

 

第1会場_第4室

 

 第5室「四大文明へ」では壁紙は黒に変わり、「四大文明」のシリーズとしては比較的小さな作品4点が陳列されていました。ここから四大文明であるナイル、インダス、黄河、メソポタミアの風景が第二会場へと広がります。

 

第1会場_第5室

 

 

 第二会場の豊中市立文化芸術センターでは「――世界四大文明の源流を求めて」がテーマとなっていました。

 

 こちらの展示室は打って変わって、明るめの照明と広々とした空間に中村貞夫の大きな風景画の世界が広がっていました。

 

第2会場_展示室
第2会場_展示室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段は絵画などを展示する機会が少ない会場だと聞いていましたが、展示の出来栄えに計画した関係者の努力がうかがえます。

 

第2会場_展示室
第2会場_展示室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幅5メートルや高さ2メートルを超える大きな作品を展示するには、さすがに第一会場の大阪大学総合学術博物館では狭いと思わざるを得ませんでした。

 

第2会場_展示室
第2会場_展示室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで観終わるともう一度第一会場に戻りたいというそわそわした気持ちになります。展示を最後まで観た者だけが分かる、初期作品からの共通点や新たな発見を探したいからです。中村貞夫の作品の変遷を追ううちに、いつの間にか彼のファンになっているのでした。

 

 中村貞夫展の終了後、神戸市立小磯記念美術館では特別展「没後30年 小磯良平展 西洋への憧れと挑戦」(2018年9月15日~11月25日)が開催されていました。中村貞夫が師事した小磯良平も同様に西洋美術を探求し、様々な変貌を遂げた様子が作品から伝わってくるような展示でした。二つの展示を観た私にとっては、師弟の展覧会が年月を経てからリレーのように近い時期に開かれたことに、二人の運命を感じました。

 

 

木羽康真(きばやすまさ)…

文学研究科文化動態論専攻アート・メディア論研究室を修了。神戸松蔭女子学院大学人間科学部ファッション・ハウジングデザイン学科にて実習助手を担当。大阪大学総合学術博物館『洋画家 中村貞夫』展(2018年)のポスター・チラシ・叢書カバーのデザインを担当。現在は関西学院大学国際学部にてPCサポートを担当。

 

 

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