館長挨拶

Kawahara

 大阪大学総合学術博物館は、2022年に創立20周年を迎えました。これまで私たち博物館は、大阪大学にある二つの登録有形文化財を拠点にして活動してきました。一つは大阪大学会館(旧イ号館、1928年竣工)、もう一つが待兼山修学館(旧医療技術短期大学校舎、1931年竣工)です。そしてこの二つを結ぶのが、『枕草子』にも登場する貴重な里山「待兼山」の遊歩道です。私たちは、これら二つの登録有形文化財と歴史ある待兼山の自然とともに多様な活動を展開して来ました。しかし、本博物館は人間で言えばようやく成人を迎えたばかりであり、今後はさらに成長し、大学博物館ならではの独自の役割を担うことが求められることでしょう。

 

 私たちに課せられた使命は、大阪大学の自然科学系部局、医歯薬系部局、人文社会科学系部局の学術標本や研究資料を収集、保管し、それらを一元的に管理することで教育研究や社会貢献に役立てることにあります。創立当初、学内には160万点を超える資料があったとのことですが、現在はおそらくその数をはるかに超える標本や資料が蓄積されていることでしょう。今後もこの第一の使命を全力で果たして行く所存です。

 

 大阪大学総合学術博物館の使命はそれに限りません。大学の研究力や教育力を向上させることは言うまでもないことですが、私たちは大学の教育研究と社会とを繋ぐ架け橋になることをもう一つの使命としています。大阪大学は江戸時代の町人社会の中から生まれた懐徳堂や適塾を精神的源流とし、90年以上前に社会の要望を受け、社会の力を借りて誕生した第6番目の帝国大学でした。爾来、大阪大学は社会との繋がりをとりわけ大切にして来ました。私たちは大学博物館としてのユニークな活動を通して、これからも社会に向けて大学を開く「窓」、さらには社会と大学との連携のための「結節点」となることを目指します。

 

 現代社会は博物館創立時の約20年前には想像もしなかったような事態に直面しており、社会の構造も人々の意識も大きく変わって来ました。電子通信技術が一層進歩しデジタル空間が地球上を覆うようになり、巨大な災害や戦争が私たちの生活を瞬時に破壊する悲惨な事態も経験しました。社会はグローバル化し、多文化共生の世界に向けての努力も必須です。さらには少子高齢化が一層進み、私たち個々の人生のイメージも変容を迫られています。そのような複雑で一筋縄では行かなくなった現代の世界に向き合い、社会と大学との連携をより柔軟、かつ総合的に展開するため、2023年度に大阪大学ミュージアム・リンクスを創設しました。本学の社学連携を推進する総合学術博物館、適塾記念センター、アーカイブズの3組織の専任教員がミュージアム・リンクスに結集し、このミュージアム・リンクスに集う、幅広い専門領域をカバーするメンバーとともに、大学博物館として、複雑化する現代社会と大阪大学とを繋ぐ架け橋であり続けたいと思います。

 

 皆様には、大学知が集積されたこの空間を存分にお楽しみいただき、そしてまた忌憚のないご意見を是非お願い致します。私たちは20歳を迎えたばかりのまだまだ未熟な博物館ですが、頂戴したご意見に真摯に向き合い、より良い大学博物館を目指して参りたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

2023年7月

大阪大学総合学術博物館館長 河原 源太