館長挨拶

nagata

 本年、大阪大学総合学術博物館は創設20周年を迎えることになりました。組織としては、20024月に設立されたのですが、実はしばらくは拠点となる独自の展示スペースを持つことができませんでした。15年前の2007年に、旧医療技術短期大学校舎を全面改修して、現在の姿でご覧いただけるようになりました。私たち大阪大学総合学術博物館は人間で言えばようやく成人を迎えたことになり、いっそう身の引き締まる思いがいたします。
 
 私たちに課せられた使命は、大阪大学の自然科学系の部局、医歯薬系部局、また人文社会科学系の部局の学術標本や研究資料、そしてその情報を収集し保管することと、その一元的管理のもとに教育研究や社会貢献に役立てることにあります。創設当初の記録によれば学内には160万点を超える資料があったとのことですが、現在はおそらくその数をはるかに超えていると思われます。今後もこの基本となる使命を全力で果たしていきたいと思います。
 
 大阪大学総合学術博物館の使命はそれに限りません。大学の研究力や教育力を向上させることは言うまでもないことですが、私たちは大学の教育研究と社会とをつなぐ架け橋になることをもう一つの使命としています。大阪大学は90年前に社会の要望を受け、社会の力を借りて誕生した第6番目の帝国大学でした。爾来、大阪大学は社学とのつながりをとりわけ大切にしてきました。社会の中から生まれた懐徳堂や適塾を精神的源流としているのもその表れです。私たちは大学博物館ならではのユニークな活動を通して、これからも社会に開かれた大学博物館を目指して行きたいと思います。
 
 現代の日本と世界は、20年前には想像もしなかったような事態に直面しており、社会の構造も人々の意識も大きく変わって来ているのだと思います。電子通信技術が一層進歩しデジタル空間が地球上を覆うようになりましたし、巨大な災害や戦争が私たちの生活を瞬時に破壊する悲惨な事態も経験しています。社会は国際化が進み、多文化共生の世界に向けての努力も必須です。さらには高齢化が一層進み、私たち個々の人生のイメージも変容を迫られています。それがどのようなものであるにしても、大学の教育研究は、そのような複雑で一筋縄では行かなくなった現代世界に向き合うものでなくてはなりません。私たち大阪大学総合学術博物館は、そのためにも、大学博物館としてできることを通して、大阪大学と現代社会とを繋ぐ架け橋であり続けたいと願っています。
 
 私たちはようやく二十歳を迎えたばかりのまだまだ未熟な博物館ですが、皆様には大学知の集積されたこの空間を存分にお楽しみ頂き、そしてまた忌憚のないご意見を頂きながら、よりよい大学博物館を目指していきたいと願っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

令和4年11月  
大阪大学総合学術博物館館長 永田 靖