1.
変わる里山:北摂の絵図と地図にみる景観変化

2.
 

3.

  物質科学へのアインシュタインの功績

4.
  この世で最も重い原子を求めて
 

5.
  漢方薬ナビゲーション:時空を超えて科学する心

6.
  宇宙から見た世界の雷活動
 

7.
  太陽エネルギーの有効利用
 

8.
  繰り返しから生まれる複雑さ
 

9.
  ナノテクの4次元空間=ナノ3次元+アト秒

10.
  PDBj: Protein Data Bank japan (日本蛋白質構造データバンク)

11.
  時を止め、空間を作る
 

12.
  琥珀にひそむ時空のなぞ
 

13.
  時間と空間の知覚:知と行動の科学

14.
  曲面の世界
 

15.
  出版活動
 
12. 琥珀にひそむ時空のなぞ

総合学術博物館 文化財科学研究グループ(協力:ブルカー・オプティクス株式会社)
琥珀図解
琥珀は、南洋杉などの樹液が長い年月をかけて化石化したもので、古くから琥珀をこすると(実は静電気のため)ものを引きつける神秘的な力をもつこともあり、宝石として珍重されてきました。
また、電子の英語“electron”の語源にもなっています。
映画「ジュラシックパーク」で恐竜を蘇生させるために、琥珀の中の蚊から恐竜のDNAを取り出す話は記憶に新しいでしょう。恐竜の蘇生は無理ですが、数千万年前の昆虫や小動物についてはそのような試みが行われています。

このように、琥珀は大変魅力的で私たちを引き付けて止まない過去からの贈り物です。

ところが、実は琥珀を作っている樹脂については解明されていない部分が数多くあります。例えば、「樹液から琥珀へ変わる過程において、どのような変化が起きているのか?」、「琥珀としてどの程度の時間を経ているのか?」、さらには、「産地や樹液の種類によって琥珀の色や風合いがどのように変わるのか?」、といった疑問はいまだに完全に解明されたとはいえません。このような疑問を解決するには、琥珀の微視的(ミクロ)な構造(分子構造)について詳しく調べる必要があります。私たちは分子構造を調べることができる核磁気共鳴法(NMR)という“科学の目”で琥珀にひそむ時間と空間(時空)の謎に挑みます。



琥珀の産地と年齢
有名な産地はバルト海沿岸、ドミニカ、コロンビアなどに限られており、日本では久慈と銚子が知られています。下に示すように、産地によって生成年代の異なる点が特徴的です。
年表
琥珀のC固体高分解能NMRスペクトル
琥珀は、下の図に示すような樹液の分子が○部分で重合して高分子(いわゆるプラスチック)に変化したものだと考えられています。

固体中の分子の構造を調べる最も有力な方法の一つが核磁気共鳴
(NMR)法です。琥珀化に関係するNMR信号強度(下図参照)で産地同定や古代の交易ルートの解明を行う試みが木村英昭氏らによって進められています。

われわれは、中国・遼寧(りょうねい)省産の試料を測定しました。琥珀化に関係する2本のピークが消滅していますので、生成年代が古いか、あるいは全く異なる樹種が琥珀化した可能性もあり、現在、検討中です。
グラフ
ポーランド産の琥珀
ポーランド産
中国産の琥珀
中国産
ラブダンジテルペンの一種
Ozic acid
表面分析用核磁気共鳴(NMR)装置
核磁気共鳴(NMR)装置この装置は、試料表面に存在する分子の状態を非破壊で測定することのできる核磁気共鳴(NMR)装置です。

特に、水分子に対して感度が高く、紙、木材、岩石などの細孔内に存在する水分子の挙動を調べる上で非常に強力な分析手段となります。
装置構成
分光器ユニット(左側)、アンプユニット(右側後方)
MOUSEプローブ(右側前方)
MOUSE(MObile Universal Surface Explorer)プローブ
2つの永久磁石が作る静磁場B0の下に置かれた核スピン(小さな磁石)のNMR信号を、永久磁石の間にある表面コイルで検出します。
MOUSEプローブ 解説
MOUSEの応用分野
紙、木材の劣化の研究
岩石中の水の分布
車のタイヤの研究
食品の脂肪量の測定
分子の状態や運動性を調べるために、スピン−スピン緩和時間(T2という量を測定します。これは、NMR信号の分布の幅をあらわすパラメータで、分子の運動性を反映します。分子が動きやすいほどT2が長くなります。                           
■ 車のタイヤのT2緩和時間測定
タイヤの測定 グラフ 冬タイヤの方が夏タイヤよりT2が長くなります。        
これから、冬タイヤのゴムの方が、夏タイヤよりも分子が動きやすく、やわらかいことがわかります。 
■ 17世紀に書かれた書物のT2緩和時間
劣化の少ない部分?では、紙の中に存在する水分子が、長いT2をもつ成分として観測されています。一方、劣化がひどい部分?では、長いT2をもつ成分がなくなっています。これから、紙の水分量の低下が、紙の劣化の主な原因となっていることがわかります。
書物画像とグラフ
Ref. B. Bluich, S. Anferova, S. Sharma, A. L. Segre, and C. Federici, J. Magn. Reson., 161 (2003) 204-209.